いよいよ待ちに待った春である。
昨年も訪れた松本市(旧四賀村)赤怒田の福寿草自生地に、今年も足を運んだ。斜面を埋める福寿草の花を見ると、信州にも遅い春が訪れたことが、実感として感じられる。今年は天候に恵まれた所為か、まるで蒲公英のような大輪の花が、向日葵のように太陽に向けて咲き誇っていた。その姿にはこれでも福寿草か、という迫力があり、何か、花の執念のようなものを感じて、息を呑んだ。
福寿草は、別名を元日草と言い、旧暦の正月に咲くことからその名がある。どちらかと言うと別名の方が昔から親しまれており、福寿草の名は、正月に力強く咲くこと、草全体に強心作用を持つ成分が含まれていることから、目出度い花として付けられた名のようである。ただし福寿草の強心成分は、大量に摂取すると心臓停止に至るそうだから、物騒と言えば物騒である。昔の人は、良くこれを適切に使用していたものだ。
さて、何はともあれ、花の季節の到来である。今年は果たしてどれだけの花に巡り逢えることか。今から楽しみにしている。
冬ごもり春咲く花を手折り持ち千遍の限り戀ひ渡るかも
冬隠 春開花 手折以 千遍限 戀渡鴨(萬葉集 巻十 1891)
春咲く花を手折り持って、これ以上恋することはできまいと思うほどに絶えず恋いつづけています。
サイト開設1周年を記念して、今回より現代語訳を付けようと思う。『日本古典文学大系』(岩波書店)の大意文を引用する。
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