林檎の花とはどんなものか、信州に越して来る迄は判らなかった。今ではすっかり、季節の風物詩である。
春先、若葉を吹いた林檎の樹に白い花が咲く。この頃には風も温み、車の窓を開けて走ると、春も盛りであることが肌で感じられる。信州に越して来て良かったと何時も思っては居るのだが、この時は格別そう感じる。尤もその反動として、働くことが嫌にはなるのだが。
前にも少し書いたが、私の愛車はカプチーノで、屋根を外してオープンカーにすることが出来る。冬の寒さから開放されたこの頃は、天気の良い休日には必ずオープンでドライブしたくなる。「オープンに生きませんか」というのがカプチーノの売り文句だったようだが、実際、車は何故屋根を閉ざして走らなければならないのだろう、と不思議に感じることもある。
最近、車だけではなく列車も窓が開かなくなり、常に空調が効くようになったようだが、そんなに風を嫌ってどうするのだろうか、と思う。自然と「触れ合う」と言うのは痴がましいが、風を感じることは自然を感じる第一歩なのではないだろうか。
春風の聲にし出なばありさりて今ならずとも君がまにまに
春風之 聲尓四出名者 有去而 不有今友 君之随意
このままずっと時を経て、今ではなくても、春風が、はっきり音を立てて吹くように、目に見えて娘が成長したら、あなたの思うままにしましょう。(萬葉集 巻四 790)
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