家の近くで可憐な花が咲いている木を見かけた。えごの木であった。
えごの木は有毒物質を含み、味が「えぐい」ことからその名が付いたと言われる。毒を利用して魚取りに使っていたという話が一般的だが、Wikipediaではこれを疑問とする説も紹介されている。
と、これは通説の紹介なのだが、調べてみると少し違うような感じがする。まず、「えぐい(えぐし)」の意味で「えご」と言う説明が付かない。このように言うのであれば、「えぐい××」という意味の「えご××」という語が他にもありそうだが、少なくとも日本国語大辞典を見る限り、ない。逆に「えぐ」がそのまま残った例として、「えぐ」(植物名。黒慈姑または芹の異名)、「えぐなすび」(茄子の異名)などがある。「えぐい木」の意味であれば、そのまま「えぐの木」とか「えぐ木」等と言いそうである。それに、この木は食用ではないから、芹や茄子のように味が「えぐい」ということは、あまり重要ではないのではないか。
では改めて、えごの木の「えご」とは何か、と、またもや日本国語大辞典を見ると、そのまま「えご」の語形で、「山、渓谷などの切れ込みやくぼみ。また、そこにできた水たまり」の意味が載っており、明治初頭の辞書にあるし、方言としても全国に用例があるらしい。ということは、「えご」は恐らく明治の初め頃までは全国で普通に使われていた語なのではないかと思う。
それを前提に考えると、えごの木が「比較的水分のある谷沿いなどで良く成長する」のであれば、むしろ「えごで良く育つ木」「えごでよく見る木」という意味で「えごの木」と呼ばれたのではないか。そして、「えぐい木」という通説の解釈は、「えご」の意味が分からなくなって、後で思い付かれたのではないかと思うのだが、さて、どうであろう。
今回は、白の連想として、次の歌を挙げる。
白眞弓斐太の細江の菅鳥の妹に戀ふれか眠を寝かねつる
白檀 斐太乃細江之 菅鳥乃 妹尓戀哉 寢宿金鶴
斐太の細江にいる菅鳥のように、妹を恋しく思うからか、眠ることができなかった。(萬葉集 巻十二 3092)
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